ある春の日に①

愛犬がとうとう空へと旅立ってしまいました。

実は、旅立ってから約1週間になります。

 

すぐにブログに書かなかったのは、

やはり最期へと向かっていくその瞬間、瞬間をあまりに詳細に覚えているので

感情が先んでてしまうと思ったから。

少し気持ちが落ち着いてからにしようかなと思っていたわけです。

 

頭と心を整理して、自分のためにこの記事を書きますので 

そういう話は苦手なので読みたくないという方は

どうかこの先は読まないでくださいね。

 

 

 

 

 

 

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その日はいつものように朝10時ごろまで眠っていた愛犬。

老犬になると朝は本当に起きなくなる。

単純に歳だから・・・というだけではなく、おそらく耳が遠くなることで

彼の睡眠を邪魔するものが少なくなっていくせいだろうと思っていた。

やっと起きたところで、徒歩1分のところにある獣医さんへ連れて行く。

寝起きでボーっとしているけれど、待ち時間ゼロで済むように、いつも獣医さんの

患者が途切れた時を見計らって連れて行くので、「眠いのにごめんね」と言いつつ

抱っこで強引に行ってしまう。いつもの流れ。

 

1月からほぼ1日おきのペースで獣医さんへ通ってきた。

状態の悪いときは毎日通った時期もある。

犬猫の腎不全には必須である皮下点滴を受けるためと、その日の体調に合わせて

下剤や制吐剤を混ぜてもらったりと、いろいろ先生の判断で薬剤を決めてもらう。

コストや通いの大変さから、自宅で輸液を行う飼い主さんも少なくないらしいが

わたしはそうやって日々の体調の変化に細かく対応して薬を使ってもらえる安心感と

他の介護で疲れて切っているのに、輸液と格闘するのは単純にイヤだという思いから

皮下輸液は一貫してずっと獣医さんでやってもらってきた。

 

1月からずっと食欲不振と闘ってきたのが、この1カ月ますます深刻になり

食べられるものはどんどん減り続ける一方で

なんとか食べてくれるものを毎日必死に探すことで

命を繋いできたといっても過言ではない。

なんど心の中で覚悟を決めたかわからない。

そしてやっと覚悟を決めたと思ったら、翌日にはパクパクとご飯を食べてくれたりして

希望をつなぎ・・・・その翌日にはまた裏切られ・・・と

病気の老犬には心身ともに、翻弄されっぱなしの毎日だった。

 

ところで、

実はこの日よりさらに3日ほど前に、

突然からだがいうことを利かなくなる発作を起こしていた愛犬。

発作は2日間で計3回。

いずれも数十秒で収まったし、倒れるのは初めてのことではないので

スマホで動画を撮る余裕もあった。

動画を確認したかかりつけ医からは、

「前庭疾患」か「てんかんの部分発作」の可能性を指摘されて

発作止めの薬をもらっていた。

それ以上、厳密に発作の原因と特定しようと思うと、MRI検査などが必要になる。

愛犬の病状や体力を考えると、彼の負担をこれ以上増やしたくはないので、

精密検査は初めから受けないつもりだった。

 

とてもショックだったのは、発作そのものよりも、

このところ食欲も少しずつ復活しつつあったのが、このときの発作をきっかけに

また食欲ゼロまで落ちてしまっていたこと。

そのうえ、腎不全が悪化してから悩みの種でもあった頻回な下痢も重なったせいで

身体の水分をすべて絞り出されてしまったかのように、

発作からの3日間で体重が150グラムも一気に減ってしまっていたことだった。

 

1月からの3か月で体重は350グラム減った。

ピンとこないかもしれないけれど、2キロの犬にとっての350グラムは

60キロの人間にとっての約10キロに相当する。

小さな体で大きなダメージに耐えていることは容易にわかる。

 

「今日はとっても暖かいし、抱っこでお散歩に行ってあげてはどう?」

 

とかかりつけ医から言われて、それもそうだなと思ったわたし。

考えてみたら、ここしばらく看護看護に追われすぎていて

愛犬を外へ連れ出す機会はぐっと減っていた。

(※心臓への負担を考慮して、ここ1年くらいは散歩も庭で遊ばせる程度にしていた)

 

そうだな。やっと暖かくなってきたのだから、

外へ連れ出して上げないとかわいそうだよね。

 

 

午後から、犬を抱いて近所の小さな公園まで歩いた。

桜が咲き始めていたので、「ほら桜だよ」と声をかけながら。

とはいえ、まあ犬が桜を愛でるわけでもないし、日差しの眩しさもあって

愛犬は眠そうにわたしの腕の中でウトウトしては、ときどきキョロキョロと

不思議そうにあたりの景色を見渡すだけだった。

リードを付けて歩かせてあげればよかったけれど、そのときは

下痢が続いていたので「外で下痢をされると後始末に困るし」という

わたしの都合を優先させてしまい、抱っこだけの散歩で終わった。

 

帰宅してからはいつものようにお昼寝タイムの愛犬。

わたしもその日の夜に備えて少し眠った後に、

PCに向かってみたり、夕飯の支度などしたり・・・

と、本当にいつもどおりの午後を過ごしていた。

 

 

そして午後5時ごろのことだった。

キッチンで夕飯の支度をしていると、ドサドサっとリビングから物音がした。

慌てて様子を見に行くと、

高さ10センチくらいの座布団をベッドにして眠っていた愛犬が

その座布団から転げ落ちた音だった。

転げると同時に、

 

ヒャン、ヒャン・・・・!

 

と、悲鳴に近いような、今まで聞いたことのない甲高い鳴き声を上げた。

 

 

数日前の発作のときは、こんな悲鳴はあげたりしなかった。

悲鳴をあげるのは、激痛でも走っているのか?とも思ったし、

それとも身体が思い通りにならないことに対して

パニックを起こしていたからかもしれないけれど、それは知りようがない。

 

立とうとしてもヨロヨロとしてしまう犬。

悲鳴をあげながら、のたうち回る。

そして

 

ついには立てなくなった・・・。

 

後ろ足が、ブラブラになっている。

 

完全に下半身が麻痺してしまったのだ。

 

最初に悲鳴をあげてから、あっという間の・・・・

本当にあっという間の、ほんの1~2分の出来事だったと思う。

 

何が起こったかわからず鳴き続け、後ろ足を引きずって前足だけで動き回る愛犬。

 

その衝撃的な姿に動揺を隠せず、抱きしめて泣きわめくわたし。

 

 

そう遠くないうちに別れの日はやってくるという心の準備はしていた。

けれど、想像していたのは徐々に食べられなくなって、ゆっくりと衰弱して、

枯れるように穏やかに旅立つ愛犬の姿であって、こんな形じゃなかった。

 

わたしは、落ち着いてそのときを迎えて、ひとすじの涙を流すだけで

しっとりと見送るはずだった。

自分にはそんな振る舞いができると思い込んでいた。

 

ところが予想外に起きた目の前の光景に、わたしは、

 

 

「もう逝ってしまうの?本当に逝ってしまうの?まだ逝かないで!」

 

 

と泣き叫び、うろたえるばかりだった。

 

(つづく)