暮らすように。

前記事で、やらかしてしまったその後は…というと、

何事もなかったかのように時間が過ぎている。

それはもう、気まずさのかけらもなく。

 

なぜなら、夕方顔を出したときには

既に父には朝の(わたしに怒鳴られたという)記憶が一切なかったからだ。

 

本当にそのとおりだと、わたしもずっと思っていたから。

 

ひとそれぞれ、家族それぞれに様々な思いはあるかもしれない。

だからせん妄状態にある親を見守るのがつらいという人も

もちろんいるかもしれない。

けれど、少なくともわたしはというと、

「父のせん妄がこのままずっと解けないといいな」と思っている。

 

一番重要なことは「父が苦痛を感じない事」だから。

それは身体の痛みだけでなく

自分の病気や状況を理解して入院せざるをえないという、

受け入れがたい現実に葛藤したり

いつ来るかわからない最期の時を思って不安に思う「心の苦痛」がないことも。

それを知らずに、気づかずに

まるで「夢の中にいる」ような状態であることは

父にとっては幸せなことに違いないのだ。 

 

ところで、緩和ケア病棟に入って約20日になるけれど、

本当にここへ来てよかったと心の底から思っている。

父の場合は、ガンの疼痛コントロールという

きめ細い医療的ケアが必要であることがネックとなって、

一般的な老人ホームでは受け入れが難しく

 

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 療養型病院か、緩和ケア病棟か…の2択しかなかったわけだけれど、

長期入院前提であれば、正直なところ前回の退院時に療養型病院へ転院するのが

わたしにとって一番ラクな選択だったと思う。
(※緩和ケア病棟は原則30日入院なのに対して、療養型病院は数カ月の入院が可能だから)

けれど、

この病院の緩和ケア病棟に入れてもらうことにこだわって良かったと思う。

もちろん、療養型病院へ移っても今の病院同様に

温かく迎えてもらえたかもしれない。

が、父の病気に関していえばもう10年以上も長年同じ総合病院に通い続けて

他を全く知らない中、

今更よその民間病院の療養病棟へ移るというのは

「期待していたほどの親身な看護が受けられないかも」というリスクも当然あり

不安の方が大きかった。

そこはもう賭けみたいなものだったろうと思う。

 

わたしが緩和ケア病棟に来てよかったと思っている点を書いてみると…

(注:あくまでも父の病院での話なので、他の病院の緩和ケアとは違う点があるかと思います。参考程度にお願いします)

 

■とにかく自由

緩和ケア病棟は延命処置や「治療」を一切しないのが原則。

だから体にモニターを常時つけたりしないし、

栄養が摂れなくても点滴をすることも基本的にはないので

(絶対しない・・・ということではなく、主治医が必要と判断したときはしてもらえるらしい)

「管につながれる」ということがない。父にいたっては一般病棟にいるときは

血中酸素飽和濃度の数値もモニター監視されていたので

酸素チューブを鼻から外していると看護師さんが飛んできたものだけれど

そういうこともこの病棟では一切ない。

(もちろん、放置するということではなく本人がイヤがることはしないという意味なので、「酸素付けておきましょうね」と優しく促すことはしてくれる)

心電図のモニターを常時つけたり、点滴をことさらイヤがっていた父にとっては

これはストレスの少ない状態だと思う。

 

■個室が非常に快適

父は普通個室ではなく広い有料個室にしてもらったけれど、結果的にこうして朝晩

通うことになった今、自分にとっても快適でとても助かっている。

以前も書いたけれど狭い個室でベッド脇に長時間座り続けるのは

なかなかつらいものがあるから。

広くゆったりした空間のおかげで

父が眠っている間はソファのほうでくつろぐことができている。

それに有料個室には大型テレビがあるので、食事の時は父を車椅子に移乗させて

もらって大きなテレビを見ながら食事をする・・・ということが可能になっているし。

施設自体が新しく清潔でどこもかしこも常に掃除が行き届いているので

長時間滞在しても、「病室にいて気が滅入る」みたいなことがない。

 

■担当看護師さんが2人つく

一般病棟の時は、担当看護師さんは基本1人だったけれど

緩和ケアでは2人ついてくれる。なのでナースコールをすると、

他の患者さんのナースコールと重ならなるなど忙しい時でなければ

大抵2人ペアで駆けつけてくれることが多い。

 

■ナースコールをすると、まず飛んできてくれる

ナースコールで看護師さんが来るのはどこでも当たり前のことだけれど

一般病棟だとナースコールを押したときに

マイク越しに「どうされましたか?」と

先に用件を聞かれるのが普通だったのに対して、

緩和ケアでは「ハイ、行きますね」と返事だけをして、

とりあえずすぐに駆け付けてくれる。

直接来て顔を見てから「どうされましたか?」と言ってくれる。

これはナースコールで用件を言えない状態にあるかもしれないという

気遣いかも?と勝手に思っている。

 

 

■看護師さんとの距離が近い

緩和ケア病棟に移ってきて本当に良かったと思っているのはこの部分だと言える。

一般病棟の看護師さんも、もちろん親切にお世話してくれる人ばかりだったけれど

家族との距離は…?というと、何か壁のようなものを感じていた。

それは看護師さんが冷たいとかではなく、

とにかく一般病棟の看護師さん達は多くの患者さんへのサポートで

忙しく動き回っている印象が強かったので

自分の性格的にも「看護師さんの手を煩わせてはいけない」と思ってしまい

「ちょっと話を聞いてほしい」というようなことで呼び止めることはまずなかった。

 

一般病棟は常駐している看護師さんの数も多いので、

病棟の廊下を歩けば何人もの看護師さんにすれ違ったけれど、

「こんにちは」と頭を下げる以上の交流はなかった。

一方、緩和ケア病棟の看護師さんは、どの人も

朝わたしが来ると、夜の間の父の様子がどうだったか?を細かく報告してくれる。

 そしてまた夕方行くと、わたしのいない間の日中はどんな様子だったか?

昼食はこのくらい食べましたよ、こんな話をしてくれましたよ、

今日はお風呂に入ったので今は疲れて眠ってしまってます~など、

こちらが尋ねなくても看護師さんのほうから必ず細かく報告してくれるのだ。

特定の看護師さんの話ではなく、もちろんどの看護師さんも対応は全く同じ。

だから入院から10日も経つころには病棟の看護師さんほぼすべてと

親しく話せる信頼関係が築けていたと思う。

おかげで、今は些細なことを相談したり、廊下ですれ違う程度の時でも

「今スイッチが入ってしまって~」「夕飯食べてくれました~!」など

気軽に話せるようになった。

 

 

看護師さん達とのこういう密なコミュニケーションは

一般病棟ではなかったことだった。会話の量が圧倒的に違う。

だから、朝晩の付き添いで病室にいるときも

あまり孤独感のようなものを感じないでいられる。

それは看護師さん達に温かく迎えられていると実感できることと

父についての「病気」以外の情報(せん妄や睡眠、衰弱や痛みについてなど)を

誰かが共有してくれていることによる安心感のおかげだと思う。

 

■きめ細かい対応

同じ看護師さんでもやはりガン患者の身体と心の痛みに寄り添い、少しでも苦痛を

取り除こう・・・・としてくれる姿勢は、

緩和ケア病棟だからこそ、であって

これは療養型病院だったら、ここまで患者一人一人に対して

きめ細かい対応はしてもらえなかったのでは?と思う。

たとえば「せん妄」ひとつとっても、高齢者ばかりの療養型病院では

認知症」くらいにしか受け止めてもらえなかったかもしれない。

ここの病棟では看護師さん達が「ガン患者のせん妄」を知り尽くしているので、

父がどんな精神状態にあっても、

「これが普通ですよ」というほどな余裕をもって対応をしてくれる。

 

 

実は昨日から、父の痛み止めが「飲み薬→貼り薬」に変更になった。

このごろ起きているよりも眠っている時間が多くなってきたこと、

せん妄のせいで薬を頑なに拒否して飲まないことが増えてきたため

「そろそろ飲み薬は難しいと思うので、貼り薬への変更を主治医に相談しますね」と

看護師さんが動いてくれてそうなった。

おかげで薬の時間に父が眠っていても、起こさず看護師さんが勝手に貼り換えて

済ませることが可能になり、これは本当に良かった。

また、寝る前の眠剤の量も、毎日一定ではなくて

あくまでもその日1日の父の様子によって量を調節してくれる。

眠っている時間が長い日は眠剤ナシにしてみたり、

攻撃的モードで神経が高ぶって睡眠が少なかった日は、眠剤2錠で・・・など。

 

 

ここは病院であって、父は入院させてもらっているわけだけど

緩和ケア病棟のホスピタリティの質は本当に高く・・・

おかげで、「入院している」という意識がものすごく少ない。

緩和ケア病棟は「暮らす」場所かもしれないと思う。

 

もちろん、父は日々少しずつ弱っていっているので、

この生活はこの先ずっと続くものではなく、

あと数週間・・・あるいはある日突然終わるかもしれないと思っている。

そしてここはそういう「家族の心の準備」をする場所でもあると思う。

 

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ガンの末期になったとき、

「最期は自宅で過ごさせてあげたい」という強い気持ちを持つ家族もいると思うし

それはそれで家族にとって間違いなく貴重で大切な時間となるでしょう。

けれど、実際には食事・トイレ・お風呂・1日の中も動く体調の変化・・・

いくら訪問看護や訪問診療の体制を作っても

24時間患者となる家族と向き合うのは精神的な負担は大きいと思います。

(昔、末期がんの母の最期の2週間を自宅で看たけれど、本当に毎日が不安の連続だった)

 

緩和ケア病棟であれば、身体介助も含めたケアの大部分は

看護師さんが支えてくれるので、家族は「寄り添う」ことにだけに

集中することができます。

 

なので、もしも親や家族がそうなったとき

「自宅で看てあげたいけど自信がない」と悩む人がいたら、

緩和ケア病棟は、その不安を軽減してもらえて、

なおかつ心穏やかに過ごせる場所なので

いつかそういう選択を迫られる日が来たときには

最期を自宅で過ごさせてあげられないことに罪悪感を覚えることなく、

場所がどこであれ、「寄り添う」ことを最優先にして、

選択肢として加えていいのではないかなと思います。