望まない入院。

つづきです。

 

思いもよらず、主治医の口から飛び出した

「入院して休養しましょうか」

という、ハッキリとした言葉。

 

父には青天の霹靂だったと思う。

そして、父だけではなくわたしも違う意味で驚いていた。

訪問看護師さんから主治医のほうへ報告が行っているとは聞いていたものの

まさか主治医がそこまで踏み込んで入院を勧めてくれるとは

想像すらしていなかったからだ。

 

おそらく・・・・だけど、訪問看護師さんからは、

わたしが通い介護をしていることが負担であるというだけでなく、

「本人を前にして入院の話をしづらい」とわたしが思っていることも

同時に伝えてくれていたのではないかと思った。

そして、所長さんは決して偶然・・・そこへ居合わせたのではなく

初めから診察に同席するために時間に合わせて来てくれたのだと悟った。

 

しかし、主治医からの突然の入院の勧めに父がウンというはずはなかった。

 

父「わたしはもう少し自宅にいたいです。」

 

主治医「なんていうか、ひとりじゃとても生活できてないですよね?」

 

父「いえ、何の問題もなく生活しています。」

 

主治医「うーん。それは周りの人の補助があってなんとかっていう・・・状態でしょう?家族さんに負担をかけてなんとか・・・っていうのは、自宅での生活が成り立っているということにはならないですよ。」

 

父「・・・・・。」

 

主治医は家族からはとても言えない言葉を、現実を、明確な言葉で父にぶつけた。

 

父「でも、わたしはもう少し家にいたいです。」

 

と抵抗を続ける父。

 

主治医「入院はしたくない?」

 

父「はい。」

 

わたしはここで初めて口を挟んだ。父と1:1の場では絶対に言えないけれど

三者の・・・しかも主治医が「味方」に立ってくれるこのタイミングで言わなければ

と思い、自分が朝晩1日2回通い続けることは大変であること、

長くは続けられないということを主治医の目の前で父に訴えた。

主治医はわたしのその言葉を受けるように、

 

主治医「・・・と娘さんもおっしゃってますし、娘さんもしんどいみたいですから、ちょっと食事も摂れてないし、一回休養しませんか?」

 

父「・・・せめてあと1か月は家にいたいです。」

 

父はまるで1か月後には素直に入院に応じるかのような譲歩案を出してきた。

けれどそれはその場しのぎの言葉であって家に帰ってしまえば何の効力も発しない

口約束であることは明らかだった。

せっかく主治医が入院を後押ししてくれようとしているこの場で、

わたしがここで折れてしまっては、「入院を勧めた」という気まずさとともに

父を連れ帰ることになってしまう。

もうここまで来たら後には引けない!と思い、わたしもさらに言葉を続けた。

 

私「ごめん、お父さん。わたしはもう1か月とか、ちょっと本当に無理だと思う。

今でもすでにものすごく身体も疲れているし、しんどいの。」

 

主治医「厳しいことを言ってしまうと・・・これはもう治る病気ではないんですね。
病院で過ごすか・・・施設で過ごすか・・・そこは自由ってことにはなるんですけど。〇〇さんが良くても、今ひとりで生活はできていないわけですよ。ご家族の人の手助けでなんとかやっているわけであって、そのご家族がちょっとしんどいということであれば、一時的な休養のために入院と言うこともアリだと思いますよ?」

 

父はそこまで言われてもなお

 

父「家に帰ってちょっと考えます。」

 

と、あくまでも抵抗を続けた。

(家に帰ったらもちろん入院なんて絶対にしないだろう)

 

こんなやり取りを何度も何度も続け・・・ようやく最後には父は観念した。

それは納得して受け入れたというよりは、

この場で入院を受け入れなければ、診察室から出られそうにないことを察したという

そんな態度だった。

ある意味、気性の荒い父が最後まで主治医(結構ズケズケ物を言ったにもかかわらず)

に対して、声を荒げて反抗しなかったのは驚きでもあった。

 

わたしはホっと安堵の気持ちで診察室を後にした。

 

が、その安堵の気持ちは本当にほんの一瞬で過ぎ去った。

 

父は診察室を出ると(主治医がいなくなると)怒りをぶちまけたのだ。

 

「皆で俺をハメやがって。」

 

と言った。

 

そこからは、不満が止まらなかった。

自分は入院なんてことは何も考えていなかったと。(そうだろうなあ・・・)

どこも悪くないのに入院が必要な理由がわからない、と。

 

幸い、一緒に診察室でやり取りを聞いていてくれた訪問看護の所長さんが

父の不満に耳を傾け、笑顔で一生懸命なだめてくれたので、

かろうじて場の空気が険悪にならずに済んだけれど

(本当に訪問看護師さんには何から何まで感謝・・・!)

わたしはそれに便乗するように、いい機会だと思って自分の気持ちを父に伝えた。

 

「わたしが1日2回通うことで、〇〇さん(夫)にもすごく迷惑かけてしまってるんだよ。毎晩ひとりでご飯食べてもらって片付けもしてもらってる。お兄ちゃんはわたしのことを心配して、毎週末東京から帰ってきてくれるとまで言ってる。でもお兄ちゃんだって仕事もあるから(ホントは無職だけど父は知らない)とてもそんなことは頼めないから。だからお父さんには不本意だと思うけれど、一時的にでも入院してもらえると、
わたしも休息が取れて助かるの。だから我慢してほしい。」

 

と。しかし、父はその言葉にも何も反応も見せず、無言だった。

 

・・・いや、正確に言えば

診察室を出てから、わたしが何を言っても無視だった。

看護師さんの言葉には答えるけれど、わたしの言葉は聞こえないふり。

目も合わせず、完全に無視されていた。

 

おそらく「ハメられた」というのは、

わたしが父をだまして入院に陥れた・・・と、そういう意味の言葉だったのだ。

つまり、父の中ではわたしが戦犯なのだ。

わたしが根回しをして、父を病院に無理矢理押し込めた・・・と。

入院を望んでいたのは確かだから、そう思われてもしょうがないけど

とても悲しかった。

 

そんな中で、まるでわたしにあてつけるように

 

「そもそも俺は病人じゃないのに、周りが勝手に俺を病人扱いしている。

オレは一人で問題ないのに、周りが勝手に心配して世話を焼いているだけ。」

 

と、なだめる看護師さんに向かって言い放った。(あくまでもわたしの顔は見ない)

 

ああそうか・・・父はそんなふうに思っていたんだ。

父は「周りが勝手に」と。

そういう考えでいる以上、どうやっても、わたしの気持ちや家族の大変さが

父に理解されることはない。

説得は全く意味をなさない。

 

 

入院が決まって安堵するはずだったのが、

親子関係は今までになく険悪になってしまった。

 

 

ここまでが昨日の話。

 

そして、今日ももちろん父に面会に行ったのだけど・・・

父はわたしが来たことに気が付くと、なんとさっと目を閉じて寝たふりをした。

口を真一文字に固く結んで、眉間にしわを寄せた険しい顔で

必死で目を開けまいとしている。

 

「どう?痛みはない?」

 

と、平静を装って話しかけるも、完全無視。

答えようとしない。

 

「お茶とテレビカード買って来たから、ここに置くね」

 

無視。

 

父は昨日からの怒りをまだ引きずっていた。

わたしは15分ほどそこに黙って座っていたが、

とりあえず入院したのは大部屋だったので、口論になっても周囲に気まずいと思い

父を刺激しないように、もうそれ以上話しかけずに

結局、会話もなく病室を後にすることになった。

 

 

もう・・・どうしたらいいのかわからなくなってきた。

入院させるべきじゃなかったのか???