PM2:00~PM5:00 【トイレ問題】

話は少し戻って・・・・

発見したときに、失禁していた父。

わたしは看護師さんが来る前に、父が失禁していたことに気付いていながら、

どうしてもそこには手が伸びなかった。

冷たいだろうからすぐに着替えさせてやるべきだと思ったけれど

それがどうしてもどうしてもできなかった。

 

そこには「自分のできることしかしない」と一線を引いてきた

自分にとって都合のいい通い介護の現実があった。

父の世話については、通いで済むことなら何でもしようと思ってきた。

同居に比べたらマシだと思って。

でも、自分にとっての通い介護には「父親の下の世話」は含まれていなかった。

 

(親なのに薄情だと思われるかもしれませんが

誰でも自動的に親だからと下の世話ができるわけじゃないということ、

みんなそのデリケートな問題とはどう向き合ってる?という・・・

きっと普通の人はあまりブログに書かないことを、

オブラートに包むであろう部分を

わたしはあえて書きたいので、イヤでなければ読んでください。

現実はそんなにキレイごとじゃないから大丈夫、ということを伝えたいので・・・)

 

どうしても生理的に無理なことだった。

祖母の介護では、高校生でありながら当たり前のようにおむつを毎日替えたし、

横漏れしてあふれた便を片付けることも平気だった。

母親が闘病中は陰部も含めて全身、体を拭いてやったし、

トイレの介助もしたし、それもまた平気だった。

おそらくそれは「親だから」じゃなくて、「同性」だから平気だったのだと思う。

 

父の濡れたズボンと下着を替えてやる・・・・それだけのことなのに

気持ちがすくんで「それだけは無理」と思ってしまってる自分がいた。

 

なので、着替えは看護師さんにやってもらおう・・・と、

そのままにしておいて

実際、着替えは看護師さんが慣れた手つきですべてやってもらえたのだが・・・

 

その着替えの際に、

「リハビリパンツか、尿パッド・・・ありませんか?」

と看護師さんから聞かれて、

 

「ああ・・・・来るべき時がきたのか・・・?!」と、

避けたかった現実を突きつけられた気持ちになった。

当然、そんなもの家には全く置いていない。

今まで縁のなかったものだったから。

 

でも、目の前の父は失禁している。介助なしに自力で立てそうにない状態でもある。

だから当然、次もまたトイレを失敗する可能性があるわけで・・・

尿パットをつけたほうがいいと看護師さんから言われて納得。

 

幸いそのときは、看護師さんが予備の尿取りパッドを持っていたので、

それを、着替えさせた下着に(生理用ナプキンのように)セットしてくれて、

さらに予備として2枚・・・置いていってくれたのでひとまずは安心だった。

 

とはいえ、その「予備のパット」・・・

つけるのはわたしなのか?(そうだ)

それを履かせるのもわたしということか・・・・?(そうだ)

もう、たかが尿パッドを目の前に・・・戸惑いしかなかった。

一気に自分の不安は、「トイレへ行きたいと言われたらどうしよう」

という、父の身体の状態よりも現実的な自分の負担のことへと傾いていった。

 

なんとか冷静に考えても・・・・

尿取りパッドをうまく装着して、父に履かせるなんて難しそうだ。

(生理用ナプキンのように、外れたり、履く途中で横にずれてくるのでは?など)

 

なので、同じ履かせるならリハビリパンツのいいのでは?・・・と思い、

眠り始めた(看護師さんがベッドまで誘導してくれたのでベッドで父は寝ていた)

父を置いて、近くのドラッグストアへ急いだ。

 

ドラッグストアの「大人のおむつコーナー」の棚の前を

まるで動物園の檻の中の猛獣みたいに、

何度も何度も右へ左へ・・・・と、行ったり来たりする自分。

 

まさか自分が大人用おむつのコーナーでウロウロすることになるなんて・・・

まあ、誰にでもいずれやってくるはずのものだったのだけど、

自分の中では「考えないようにしていた現実」なので、受け入れがたいことだったし

何より、「介護は突然やってくる」ってこういうことを言うんだ!と

よく言われる言葉の本当の意味が分かった気がした。

 

尿取りパッド、リハビリパンツ、完全なおむつ・・・・タイプもメーカーも多種多様で

何を基準にどれを選んでいいのかさっぱりわからない。

値段を比較している余裕はそこにはない。

「やっぱり尿取りパッドのほうが父は抵抗がないかも?

いやでも、介護者の安心感でいえば、リハビリパンツのほうだよなあ・・・・」

と迷う迷う。

 

 

さんざん迷った挙句、

とりあえず「お試し」ということで一番入っている枚数の少ない、

少量タイプのリハビリパンツのパックを購入。

しかし、購入したリハビリパンツを眺めながら・・・・そこでもやっぱり

「これ・・・・わたしが履かせるんだよね・・・?」

と、やりたくないことに対する不安が募った。

それでも、漏らされるよりマシだし・・・・頑張るしかないのか・・・(汗)

 

 

 

紙パンツを購入して実家に戻ると、しばらくして父が目を覚ました。

午後4時ごろのことだった。

 

父は「トイレに行きたい」という。

ついにきた・・・・!

 

看護師さんが尿取りパッドをセットしてくれているのだから

もう起き上らずにそこにしてよ・・・・という気持ちに一瞬なったけれど、

パッドの中に排泄されれば、

当然「パットを新しいものにつけかえ」なければいけないわけで・・・。

 

・・・・この場合、なんとしてもトイレへ連れて行き、

「自力で用を足してもらう」のが正解だと思い直した。

 

看護師さんがいたときには、肩を支えてやれば歩くことができたので

トイレに連れて行くことはそれほど難しいことではないはず・・・と思っていた。

 

が、とりあえずベッドから立たせようとするのだが

これが岩のように重くて、なかなか持ち上がらない!!

父はもともと痩せているし、この1か月の食欲不振でさらに体重が落ちた様子なので

おそらく今の体重は50キロ切っているのでは・・・?と思われるのだけど

それでも持ち上がらないのだ。

 

看護師さんなんかは、エイヤーと簡単に立たせていたのに・・・・!

脇に手を通してみたり、首につかまって!と抱き着かせる形にするのだけど

重くて重くて・・・。

脱力して起立する力のない大人を立たせることが、これほど重労働だと思わなかった。

つくづく、介護士さん、看護師さんのプロの技のすばらしさを痛感。

 

わたしは腰を手術していて、深く前かがみになることが難しいため

よけいに父を引き上げるのが困難だった。

将来の腰の再手術リスクを極力減らしたいがために、

普段から深く前かがみになる姿勢を取らないように暮らしている。

(だから術後5年、いまだに洗面台で顔を洗ったことがない)

そんな状態だから、父を持ち上げるにも自分の腰のことが気になってしょうがない。

とにかく、腰を折る姿勢が怖いのだ。

 

けれど、この父を持ち上げるためには普段は絶対取らない姿勢を取らざるを得ない。

これが腰が壊れるんじゃ・・・?というくらいの恐怖だった。

きっと人には伝わらないと思うのだけど・・・。 

 

わたしにつかまって!ここにつかまって!と、必死で声をかけて

なんとか立たせるが、看護師さんが来ていた時には手を取れば歩けていた父なのに

2時間ほど眠っていた間にさらに体力が落ちたかのようで

後ろから両脇をホールドして、父の全体重を支えていないと

歩けないほどにグッタリした体になっていた。

 

寝室からトイレまで、わずか10歩程度の距離を汗だくになって必死で歩かせ、

父に、両手でトイレの壁を支えるように言って、背中側からズボンをおろした。

「あとはなんとか自分でできますように」と背中から脇を支えて祈りながら。

 

意識朦朧している父は、排尿の最初で失敗してしまったようで

パジャマを軽く濡らしてしまっていたが、以降はなんとか排尿できた。

 

少し濡れてしまったズボンを着替えさせる気にはならなかった・・・。

「やりたくない」という気持ちもあったけれど、

それ以前に自分の腰は、父をトイレに連れて行っただけで悲鳴をあげていたので

身体が動かない父の着替えは大変すぎて、腰が到底もたないと思ったからだった。

 

もうそれが精いっぱいだったけど、これ「大」だったらどうするのだ?

と、さらに恐怖なイメージが一瞬頭をよぎる。

 

それから熱を測ると、やっぱりまだ39度3分もあり、下がる気配がない。

看護師さんに言われた通りこまめに経口補水液は飲ませているんだけどなあ。

 

そして

看護師さんがいたときには、手足は冷たかったのが、今は全身熱くなっているし

あれほど寒がりな父が「熱い。氷枕が欲しい」と言い始めたので、

ついさっき、リハビリパンツを買って来た同じドラッグストアへもう一度走って

氷枕を買って来た。

 

こんな状態で・・・・明日まで様子を見るのだろうか?本当にこの熱下がるのか?

とりあえず、「父を寝かしたらいったん自宅へ」って言ってる状況じゃないな。

夜中じゅうついていないとダメだ。

 

そして、トイレどうする???

さっきあんなに大変だったのに、何度もトイレに連れて行くのなんて

わたしにはもう無理かもしれない。

かといって、父に「おむつの中にしてくれ」だなんて言えない。

ああどうしよう、どうしよう・・・。

 

そんなふうに、高熱の父を見守らなければいけないことに対する不安感が

あらゆる角度から自分に襲い掛かってきていた。

 

そしてさらに1時間後の午後5時、父の体温を測るとついに40度に達していた。

看護師さんは、「入院にはならないと思います」と言ったけれど、

素人目にも状況は悪化しているとしか思えなかった。

 

さらに、血中酸素飽和濃度も、酸素を3Lも入れているはずなのに

90まで下がっている。

(※通常は就寝時は1Lで十分なはずなのに3Lでもまだ足りないということ)

 

これは絶対におかしい。

さっきからこまめに水分も摂らせているのに熱が下がらないし。

本当にただの脱水なんだろうか?

こんな父を夜通し看る自信がない。夜中にもっと悪い状況になったら、

さらに動きにくくなるのでは?

病院へ連れて行くなら、ギリギリ今(明るい時間)なのでは?

 

そう思って、再びさっきの訪問看護師さんへ電話を入れた。

 

「やっぱり一晩様子を見る自信がないので、これから救急外来へ連れて行きます」

 

と。

 

 

 (つづく)