父、突然の・・・。

入院から7日目。

この日も午後2時半ごろに父の病室を覗いたところ、父の姿がない。

どうやら、シャワー浴に行ったようだった。

 

 

しばらく病室で待っていると、父が看護師さんに付き添われて戻って来た。

しかし驚いたことに、歩いて戻って来た。

てっきり車椅子で行ったもの・・・と思っていたので、

まさか歩いて行ったとは・・・・

 

病人扱い&年寄り扱いされることをことさら嫌がる父なので

(病人だし、どっからどう見ても年寄りなのに)

看護師から車椅子を勧められて眉をひそめたのは想像に難くない。

 

しかも、病衣ではなく、シャツとステテコ姿で戻って来た。

まあ、暑かったから病衣を着ずに戻って来たのだと思うけれど

看護師さんが「さあ、(病衣を)着ましょうね」と言うと

不機嫌そうに、「着なくていい、どうせすぐに退院なんだから」と憮然として拒否。

 

シャツとステテコ姿で寝ている入院患者なんかいないでしょうに・・・。

しかも、寒がりなんだから病衣は着ておいたほうがいい、と父を怒らせないように

やんわりやんわり促すと

わたしをチラリと軽くにらみつけて、渋々病衣に袖を通す。

 

ん?なんだかイヤに不機嫌そうだぞ・・・?と、この時点でイヤーな予感がする。

 

看護師さんが病室から出て行ったあとに、父が

「全身あちこち痛くてたまらない」とわたしに言った。

 

驚いてどういうことかと聞き返すと、

本人いわく、

「久しぶりに動いたせいかもしれないが筋肉痛のように全身が痛い。
だるくてたまらない」

と。

 

この後のわたしの一言が地雷だった。

 

私「シャワー手伝ってもらった?」

 

父の顔がいきなり険しくなる。

 

父「バカな。そんなこと頼めるか!」(←めちゃくちゃ不機嫌)

 

私「え?でもずっと寝ていたんだし、
転ぶと危ないし、助けてもらったらよかったのに(自然な思考)」

 

父「そんなことは死んだってごめんだ。お前が何と言おうと譲れないものがある。大の男がそんなことを看護師に頼むなんてありえんわ!バカにするな!(怒)」

 

父が突然キレ始めたのは、もしかしたらお風呂のときに看護師さんにも同様に

「お手伝いしますよ」と、介助の申し出を受けたからかもしれない。

(当然そう言うだろう)

だから「どいつもこいつも」という感じだったかも。

 

・・・と、キレると同時に いかにお風呂が大変だったかを訴えたいのか

 

父「体が痛くて重くて、シャワーはなんとかできたけど、
とても風呂に入れる状態じゃないわ」

 

と父が言うので 

「それじゃあ家に帰ってからもお風呂はやめてシャワーにしておいたほうがいいね」

わたしが言うと怒りはさらに加速。

 

「家に帰れば入れるだろうから心配していない。

ここは疲れるからな。家に帰れば疲れが取れる(怒)

そもそも入院の必要もなかったのになぜ入院になったかも理解できん。

 

と、ちょっと聞き捨てならない言葉を捨て台詞のように吐いて

その後は無言で不機嫌にベッドに横になった。

まるでわたしが無理矢理入院させたかのような口ぶりか・・・?それは。

(いやまあ、そうだけど)

 

ブログに書いてきた入院までの経緯からわかるように

父は薬の副作用で一時的に認知症のような状態になっていたので

入院前の自分の状態を全く覚えていない。

わたしが朝夕父のところに通ったことも覚えていないし、奔走したかも知らない。

 

そしてついでに言うと、入院当日の午前中、父の意識朦朧ぶりが激しかったために

「今日ヘルパーさんが来るけど、その状態でひとりでお風呂に入るのは危ないよ。

今日はヘルパーさんに介助してもらったほうがいいんじゃない?」

と勧めたところ、

「そうだな。危ないと思うわ。でも風呂は入りたいから今日は手伝ってもらおうかな」

と、父はその時、素直に介助してもらうことに同意していたのだ。

 

今思えば、それこそが

「意識が正常ではない状態だった」ことの証拠だったといえるわけだ。

正気だったら絶対に受け入れないことをあっさり受け入れたわけだものね。

 

でも、そんなやりとりも当然父は覚えているわけなかった。

だからこそ、「入院の必要もなかったのに」という文句が出たのだと思う。

 

この父の態度にキレたのはむしろわたしだった。

でも必死に抑えて抑えて、ゆっくり丁寧に

 

「そんなことで怒らないでよ・・・。心配だから聞いただけだよ。」

 

なだめようとしたが、なぜか火に油。

 

「うるさい!お前に何が分かる!」

 

あーーーーーーーダメだこれは・・・。

もうめんどくさいから帰っちゃおうかな・・・と一瞬頭をよぎる。

父がこうやってキレたときは、何を言ってもダメなので、

怒りが自然鎮火するまで待つしかないのが定番。

 

今日も片道40分もかけて病院まで来たのに、いきなりこれか・・・。

毎日来てるのにこれか・・・。

わたしの日々の苦労は・・・?こんな父親をこの先も看ていかないといけないのか?

と、この日まで父の機嫌を取りながらなんとか付き合ってきたことが

一気に不毛な努力に思えてきて、怒りと虚しさがこみ上げる。

 

父の気持ちはもちろんわかる。

父はこんなヨボヨボのヨレヨレになっても、「男としてのプライド」と闘っている。

父は「排泄の世話」と「お風呂の介助」だけは耐えられないのだ。

もちろん、普通の人だってそれは簡単に受け入れられることじゃないことだろう。

 

父の場合は、「恥ずかしいから頼みたくない」ではなく、これが

「俺様にそんな提案をすること自体が許されない!」という傲慢さに変換される。

 

でも、どう考えたって、病気の進行とともにいずれ動けなくなる日はくる。

それは間違いなく数か月以内には・・・。

現にこの日、ステテコ姿で病室に戻ってきたときに、父の足の細さにびっくりした。

2年くらい前までは、1日1時間散歩していると豪語していた父の足はもう、

筋肉らしきものはすべて削ぎ落ち、ガリガリな足になっていた。

足腰が本格的に弱るのはそう遠くないな・・・と感じたほどだった。

 

さて、この気まずい空気をどうしようか・・・と考えていたときに

父の担当責任者になっている看護師さんが例の服薬管理の説明のためにやってきた。

薬の管理がもっと簡単になるように、いろいろ工夫を加えてくれたので

その説明のためだったのだけど

 

不機嫌モードを継続している父は、

この看護師さんに対して初めから笑顔ひとつなく、失礼な態度と暴言を繰り出した。

 

もう、ああ言って、こう言って、こうなって・・・と、

記事の中で会話を書ききれないくらいに、それはもうひどい状態で・・・

とにかく、看護師さんが親切丁寧に説明しようとしているのに、

彼女の言葉尻を捕まえて

「その言い方はなんだ」

「俺をバカにしているのか?」

「もっと論理的に説明しろっ」

「そんなことは言われんでも分かる」

「お前は一体何様なんだ」

「さっきから俺の聞いてることをお前は理解してるのか?」

 

・・・とまあ、看護師さんが一言言うたびに、揚げ足をとっては、

ああだこうだと難癖をつけ続けて話が延々終わらない状態に。

それはもう言いがかりレベル。クレーマーだ。

 

正直、説明はものすごーーーーく簡単なことだった。

わたしが聞いて、「ああなるほど!わかりました」と1回でわかるようなこと。

けれど、来月80歳になる、わかりやすく言うと頭の中が「Windows95」くらいの

後期高齢者の父にとっては、処理能力がおいつかず

そんな簡単な説明が、なかなか理解できない。

自分の聞きたいことが適切に伝わる質問文すら出てこない感じだったので、

わたしと看護師さんは、父が一体何を聞きたいのか?を知ることが大変だった。

 

父はたぶん、わたしと看護師さんだけが理解していて、

自分だけが何度聞いても理解できないことに、イライラを募らせていっていた。

聞いても聞いても自分だけが覚えられない。

聞きたいことがあるのに適切な表現が浮かばない。

でも「自分が理解できない」ということが悔しく腹立たしいので、

 

看護師さんに対して「お前の説明が悪い!と、

責める言葉しかない状態。

まるでケンカした子どもが頭に血が上って「ばーかばーか」しか言えないのと、

やってることは同レベルだと思った。

 

看護師さんは、終始笑顔で根気よく何度も同じことを教えてくれているのだけど、

父は言葉尻をつかまえて噛みつくだけ。

暴言を吐かれる看護師さんに申し訳ない・・・という思いで

看護師さんの説明を、わたしがかみ砕いて説明しようとしたそのときだった。

 

「やかましいっ!お前は黙っとれ!」

 

と父がわたしに目を剥いて怒鳴った。

 

 

さっきのシャワー浴のときに言われた言葉や態度を、ぐっと飲み込んで

父の機嫌が治るのを待とうと思って、耐えていたわたし。

 

もうやってられないわ・・・・という脱力感に襲われて

 

その場から逃げて、何もかも放り出したい衝動に駆られた。

 

 

(長くなるのでいったん切ります)