夫の言葉を思い出して。

(つづきです)

 

この通い介護生活が始まって9か月目。

それまでは、父がわたしに対して声を荒げることは

数えるほどだったけれど、

この生活が始まってからは、父の私に対する怒りの沸点は確実に下がった。

 

その理由はたぶん、

もともと人から指図されるのが大嫌いな人間が、家族の助けが必要になったときに

自分が主導権を握ることができないことへのフラストレーション。

機嫌のいいときは「いい娘だ」と幸せ気分でいられるけれど、

自分の思い通りにならない場面にくると、

「なんでも決められてしまう」「行動をいちいち注意される」ことに対するうっぷんが

どんどん溜まっていくせいで、許容できるレベルが減るのだろうと思う。

さらに、自分の体が以前のようには動いてくれない、

体重は軽くなり、身体は細くなっていくのに

なぜか動きはどんどん重くなっていく・・・という

コントロールできない状態に対するうっぷんが加わってくる。

 

それは、わかる。

 

でも、わたしにも感情がある。

天使じゃない。

どれだけ罵倒されても、暴言吐かれても

家族だからこそ、腹がも立つ。

 

服薬管理の説明に来ていた看護師さんは、なんと15分くらい

ずっと父にイチャモンを付けられ続けて、対応し続けた挙句、何度も平謝りで

(※看護師さんには1ミリの落ち度もない!)

やっと父から許してもらい、解放された。

病室を出ていくときに、わたしが苦笑いで

「本当に申し訳ありませんでした」

と頭を下げると、父はわたしが看護師さんに謝ったことが気に入らなかったようで

わたしを睨みつけたまま

 

「今のはどういう意味だ?それは?俺が迷惑かけたとでも言いたいのか?」

 

と噛みついてきた。

 

いつもだったら、ここで無言でドアをバシ!っと閉めて逃げかえるところである。

でも、思いとどまった。

だって、明日もあさっても来なければいけないのに、

一体どんな顔して来たらいいというのか?と思ったのと同時に

 

以前言われた、夫の言葉を思い出していたからだった。

 

norako-hideaway.hatenablog.com

 

↓その時の言葉がコレ(過去記事から抜粋)

「たぶん・・・。お前はそろそろお父さんに対してもっともっと、
強く上からものを言ったほうがいい時期に来ているんじゃないか?
子供扱いするくらいに、強気で。
お父さんを怒らせたくないとか、キレるから怖いというお前の気持ちはわかる。
でも、この先もっと状況が悪くなっていくことを考えると、
いつかはガンのことは、本人に自覚させなければいけない時期がくるし
いつまでもそうやって逃げてはいられないんじゃないかな?
いつかはお父さんに正面からぶつからなくちゃいけないと思うぞ?
ケンカになってもいいから、
言うべきことは引かずにハッキリ言ったほうがいいと俺は思うぞ。
もうそういう時期に来ているんじゃないかな?」

 

今がまさに

「強く言うべきとき、そして主導権はわたしにある、と父親に自覚させるべき」

と思った。

 

子供のころから親は絶対で、

特に父親に逆らうなんてことは許されない空気の親子関係だった。

だから、アラフィフになったって根底で父親が怖がっている自分がいる。

それはもう子供時代に刷り込まれた「恐怖」なので簡単には引きはがせない思考だ。

 

けれど、このまま逃げ帰ったら夫に同じことを言われるだろうし、

こんな横暴をいつまでも許したらダメだ・・・と、意を決して思い切って言った。

 

あくまでも、感情的にならず、冷静に落ち着いて・・・。

 

「お父さんは何がそんなに気に入らないの?

さっきから来る人来る人に、ものすごくイヤな態度ばかり取ってるよ?

みなさん、お父さんのためを思って一生懸命尽くしてくれているの、わからない?

わたしのことも、お前は黙っとれ!とか、どういうこと?

あんな言い方はないんじゃないの?

わたしのことがそんなに気に入らないというのなら、このまま帰るし、

もう来るのもやめるよ?

わたしが毎日お父さんのためにどれだけ時間割いてるかわかる?

わたしがどれだけ大変な思いしているか、わかる?

わたしだって暇で来ているんじゃないんだよ?

お父さんが一人では大変だろうと思って、来てあげてるんだよ?

お父さんのことが心配だから来ているんでしょ?

でも、お父さんがわたしのことが気に入らないというのなら、

もうわたしはお父さんのところへ通うのやめます。

ひとりで家に帰って一人で全部好きにやったらどう?

ヘルパーさんや訪問看護師さん、お父さんのサポートをしてもらえるように

あちこち頼んで手続きしたのは、全部わたしなの、わかってる?

そのわたしのことが気に入らないというのなら、

これからは自分で全部打ち合わせとかすればいいんじゃないの?」

 

今まで言ったことのないことばかり、

それも、「要介護者を追い詰めるような言葉」のオンパレード。

自分でも最悪だわ・・・もっと他に言い方があるだろうに・・・と自覚しつつ

言わずにいられなかった。

わたしが身の回りの世話をしてくれるという日常を

当たり前に思っている父には、

このくらいストレートに言わないとわからない!と思ったからだ。

 

父は恐ろしく力の入った目でわたしをじっと見ながら、口を真一文字に結んだまま

黙ってわたしの言うことを聞いている。

 

それはすごく動揺しているように見えた。

父はこれまでの長い長い人生ずーーーっと、

気に入らないことがあると、取るに足らないことでも理不尽に怒り狂い、

「我慢」ということを知らず、周りに怒りをまき散らして生きてきた人だ。

特に妻(わたしの母)に対しては、

こんなふうに言い返すことは絶対に許さなかった。

母はそんな父のパワハラモラハラ夫ぶりにひたすら耐えるだけの人だった。

 

おそらく、父はそんな自分の妻からですら、

今のわたしがしているような反撃を受けたことがなかったはず。

 

父は頭の中は一瞬パニックになったと思う。

 

一息ついた後にわたしは続けた。

 

「わたしが面倒を見なければお父さんは一人暮らし続けられないでしょう?」

 

本当はこのあとに「そのときは施設に入るしかないんだよ」とまで言おうと思ったが

次の瞬間、父が口を開いた。

 

父「わかって います。」

 

無表情のまま、精いっぱいの言葉だったように見えた。

 

私「気に入らないこともあるかもしれないけど、だからといって暴言吐くのやめて。

怒るようなことじゃないでしょう? そういう態度を取られると、

わたしは悲しくなるし、お父さんの面倒見る自信なくなるから。」

 

父「はい。これからは 気を付け ます。」

 

この言葉も、父は堅い表情のまま、じっとわたしを睨みつけるように凝視した状態で

なんだかロボットのような棒読みで言った。

 

たぶんこれは、父の精いっぱいの「ごめんなさい」だったと思う。

「ごめんなさい」だけはプライドが許さなかったのだろう。

 

反抗期真っ盛りの中学生を相手にしている気分だった。

ほら、中学生くらいだとまだまだ親の手が必要な年ごろ。

けれど自我も強くなってきて親の言うことにイライラして

ついうっかり取った反抗的な態度が忙しい母親の逆鱗に触れることってよくある。

 

それまでの積もり積もった反抗的な態度を「まあ反抗期だし放っておくしか・・・」と

ある程度我慢して目をつむってきたものの、ついに限界が来た母親が

「いい加減にしなさいよ!何なのその態度は?
そんなにお母さんのことが気に入らないならもういいわ。明日からご飯も作らないし、洗濯もしないし。もう全部自分でやれば?好きにすれば?お母さんは知りません」

 

と雷を落としたときに、中学生の子供が・・・

その目は全然納得がいっていないし、「ごめんなさい」と言いたくもないくらい

お腹の中では母親にムカついているんだけど

でも、母親の本気度に圧倒されて「ごめんなさい、これからは気を付けます」と

渋々言うしかなくなるシチュエーション・・・。

 

 

まさにそんなシーンのデジャヴだった。

 

 

その後しばらく、なんとなく気まずい空気になったけれど、

テレビの相撲中継に助けられて少しずついつもの空気が戻って来た。

最後は「じゃあ明日ね」といつもどおり病室を後にできた。

 

 

帰り道、なんかちょっと反論できない言葉で責めすぎたんじゃないだろうか・・・と

罪悪感がわきあがってきて胸がザワザワ。

 

夜、帰宅した夫に事の顛末を全部報告し

「ひどいことをお父さんに言っちゃったけど、よかったんだろうか・・・」

と確認すると

 

「オレは間違ってないと思うぞ。前にも言ったけど、もうお父さんのことは

子供だと思ったほうがいい。だからたまにはそうやってキツく言って

お前には逆らえないということをわからせなくちゃいけないときはある。

でないとこの先お前が困ることになるから。

だから、お前の言ったことは間違ってないんじゃないの?」

 

とわたしのしたことを肯定してくれて、やっと気持ちが落ち着いた。

 

 

看護や介護の専門的なことを相談できる相手がいても、

やっぱり、親子関係の根深い部分については、

きっと相談しても、なかなか父がどんな人物であるか?は伝わりにくいし

アドバイスも私に気を使った言葉になるはず。

けれど、夫の場合は家族だから言いにくいことも遠慮せず言ってくれる。

だからこそ、「それでよかった」と言われたときの安堵感は大きい。

 

夫に父のことをいろいろ報告や相談ができるようになって本当に良かったと思う。

 

さて、今日は方から担当者会議。

 

行ってきます。