全部吹っ切った。

月曜日の朝、父を訪ねた。

真っ先にわたしの視界に飛び込んできたものは父の姿ではなく

リビングの入り口に無造作に放置されている酸素のチューブだった。

 

父は土曜日に引き続いて、酸素を吸っていなかった。

長い時間そうしていたのだろう。酸素を吸ってないことを忘れているかのように

悪びれもせず、わたしの顔を見て「あ~ごくろうさん」と笑う。

 

酸素をちゃんと吸わなければダメだと言えば逆ギレされ、険悪になる。

何も言わずに好きにさせておけば、行動はどんどんエスカレートする。

放っておくことは簡単だけど

「酸素なんて苦しくなった時に吸えば十分なんだ。」という持論を振りかざして

医者の指示を無視して、

どこも悪くないと言ってふるまう、素行の悪い父親のために

わたしは週3回も、洗濯・ゴミ捨て・買い物をしてやらなくちゃいけないのか?

と、考えるとどうしても優しくなれないドス黒い感情が湧き上がってきてしまう。

 

もちろん、父には何も言わなかった。

「注意する」「しない」を天秤にかけたら

マシなほうはやっぱり「しない」しかないもの。

 

でも、言わない代わりに、どうしてもこのモヤモヤを誰かに聞いてもらいたくて

共感してもらいたくて、思い切って兄弟にLINEを入れた。

ところが、父のことを一番わかっているはずの、

そしてそんな難しい父と密に付き合うことがどれほど大変かをわかっているはずの

兄弟2人から返ってくる言葉は

わたしが欲しい言葉からは程遠いものだった。

 

「まあ、お父さんらしいよね。」

「ほうっておけばいいんじゃない?」

「どうせ言ってもきかないし」

「お父さんの余命なんだから好きにさせたら」

 

わたしはそんな父のために週3日も通わなくちゃいけないのがイヤだ、と

訴えると

 

「行かなきゃいいんじゃないの?」

 

そんなことできるわけがない。

安否確認の意味もあり、蕁麻疹や背中の激痛など、

行ってみたら具合が悪くて慌てて病院へ・・・ということだって実際何度もあった。

父は自分の具合が悪ければ悪いほど、

入院させられるのを恐れて、自分からわたしに連絡をしてこない。

だからこちらから体調確認するのは大事なのだ。

でも兄弟は関わっていないから、そういうことがわからない。

そしてすっかり習慣化している通い介護を、今更どんな理由をつけて

父に「もう来ない」と言えばいいというの?それを言うのは誰だと思ってる?

 

また、わたしが週3日通っていることは

ヘルパーさん、保健師さん、看護師さん、みんな知ってる。

わたしが腹を立てて家に寄り付かなくなり、

突然、洗濯物やごみが山積みになりだしたら何と思われるか?

父だって聞かれるだろう。「娘さんは最近おみえにならないんですか?」って。

父に「娘はもう世話はやめるから来ないと言ってるんです」と言わせろというのか?

だから「行かないなんて無理」・・・と言うと

 

「人の目を気にする理由がわからないんだけど?」

 

と言われた。

そりゃそうだ。兄弟は介護サービスの関係者とは会ったこともない他人だもの。

担当者さんたちとの関係は全く考えなくてもいいでしょうよ。

何度も対面で、電話で話してお世話になっているわたしは

そういうわけにはいかないのよ。

介護サービスはこれから先もずっとずっと利用するのよ。わたしが窓口になって。

・・・と言っても

「別に何か言われたっていいんじゃないの?」と、まったく会話がかみ合わない。

 

兄弟2人は二言目には「ほうっておけば」「距離をおきなよ」としか言わない。

それは現実的に何のアドバイスにもなってないことに気付いてもくれない。

訴えても響かない。

 

わたしが父を放り出して、距離をおいたあとに生じるであろう現実的な問題に

対処することを引き受ける気は一切ないのだ。

酸素を吸わずに体調不良を起こすかもしれない父を慌てて病院へ連れていくのは誰?

放っておいた父の洗濯物やゴミを、結局処理するのは誰?

介護サービスの担当者と連携するのは誰?

 

「ほうっておけ」がわたしを救い出すアドバイスだと思っているなら、

「あとのことは俺たちでなんとかするから」とまで言ってよ。

 

そして、何を言ってもわたしのモヤモヤが取れないと思ったのか

しぶしぶ出てきた言葉が

 

「うーん、じゃあ、夏に帰省したときにでも3人一緒に言ってみる?」

 

だったのだけど、わたしに言わせたら

どうして「3人で」なの?だった。

 

3人で父に詰め寄って「ちゃんと酸素吸いなさい」と言ったら

どうなるかわかるだろうに。

 

あなたたち2人はそりゃいいよ。

言いたいこと言って、父に逆ギレされて険悪になったら

とっとと自分の家へ帰って、お互いのほとぼりが冷めるまで

何か月でも会わずにいられるわけで、いつでも逃げられるんだもの。

でも、わたしはどうなると思う?

 

わたしはどんなに関係が険悪になっても

「もう1か月くらい行くのやめよ」とかできないんだよ?

 

だからわたしは父に注意はしたくないと言っているのに、

「3人で一緒に言おう」じゃなくて、

そこは「僕たち2人で注意してやるから任せとけ」って

言ってくれるところじゃないの・・・?

わたしを加勢に使おうとしないで。

結局、二人とも「お父さんはお前の言うことなら聞くだろう」

と思っているわけで、そこでもわたしをあてにしてるのだ。

 

ここ2か月くらい、兄弟には連絡を取らずに

イヤなことがあっても全部自分で消化して乗り越えてきて・・・

思い切って自分の思いをぶつけてみたら、これだもの。

 

よけいに気分が落ち込む結果になってトホホでしかなかった。

 

でも、SNSで友達に話を聞いてもらったら、すごく気が楽になった。

やっぱり「そうだよね、ひどいよね」ってただひたすらに共感してほしいのよ。

こういうときって。「ほっときゃいいじゃん」じゃなくて。

 

そして、気持ちはクリアになった。

もう、兄弟は一切アテにしない。

いないものと思う。

 

別にケンカしたわけでも、ケンカするわけでもないので

兄弟の関係が険悪になったりするわけではないけれど

父のことで、兄弟のことはもう金輪際、

1ミクロンもあてにするまい、頼るまいと決めた。

 

ちょっと頑なになっているかのように思われるかもしれないけれど

「頼りたいのに頼れない」と思うから苦しいわけで・・・

なんなら「わたしはひとりっこ」くらいに割り切ったほうが

割り切れるし、開き直れると思った。

 

以前批判コメをくれた人が

「兄弟それぞれできることをすればいいのでは?」と言っていたけれど、

 

遠くの兄弟は距離を理由に「できることだけ」やっていれば

責任を果たしているかのように自己満足できるかもしれないけれど

 

一番近くにいるキーパーソンになる兄弟は、

「できないこと」も「やりたくないこと」もやらなくちゃいけないのだ。

そこを、わたしの兄弟はどうやっても想像力を働かせてくれない。

 

たぶん、同じ立場を経験した人にしかわからないのだろうなあ。

 

とにかく、吹っ切れた。

 

 

あ、決してヤケクソになってるわけじゃないので大丈夫。

 

全部ここに吐き出して、すっきりしました!