介護認定調査の難しさ(前編)

入院中の病室で行われることになっていた介護申請の認定調査のために

予定の時間の1時間前に病院に到着したわたし。

病室へ行く途中に地域包括支援センターのSさんに遭遇したので、

気になっていたことをあれこれ相談したのが前回。

Sさんと別れて病室へ到着した後は、

父と一緒に調査員の人がくるのをドキドキしながら待っていた。

 

調査員は看護師さんに案内される形で、ほぼ時間通りにやってきた。

なんというかイメージ的にものすご~く堅くて、お役所的なピリピリした雰囲気の人が

来るかと思っていたが、実際にはマスクで顔は隠れていたものの

ニコニコと優しい雰囲気の若い女性だったので、予想外だったし緊張も少し緩んだ。

 

どこまで理解しているかは不明だが、わたしは前もって父に

この調査の趣旨を説明し、

「いいところを見せようと思って、

なんでもできますできます、って言わなくていいんだからね。

そうすると介護度が低めに出ちゃうから」

と、笑いを交えて伝えていたのだけれど、

 

調査員が病室へやってきたときに、ベッドの上で横になっていた父は

わたしに手を差し出して、「起こしてくれ」という仕草をした。

 

いや、いつも自分で起きてるし!

 

と、父の(おそらく弱っているように見せようとする)小芝居に

思わず吹き出しそうになったが、

笑いをこらえながら、父の腕を引っ張って、体を起こすのを手伝った。

それを見て調査員さんはすかさず

「いつもそういう感じで、起き上るのには補助が必要な感じですか?」

と早速質問をした。

父は「いや、いつもというわけじゃないですが」と、少しシドロモドロ。

 

ところで、知らない人のために簡単に説明すると

(といっても、わたしも今回初めて体験したばかりの初心者だが)

介護認定調査というのは、あらかじめ認知度や体の不自由度を問う数十個

(おそらく50項目以上はある)の質問項目が決められていて

(それはネットでおおよそ予習はできる)

調査員さんはその規定の質問に沿って、ひとつひとつ聞いてくる。

 

その質問項目にないことについては「特記事項」として、調査員さんがそのつど

メモを取っていく感じのようだ。

で、その結果は簡単に言うと「できる」「少し不安」「できない」みたいな

成績表のような形の単純判定でコンピューターによる審査にかけられる。

(これを一次判定というらしい)

 

その機械判定だけでは判定できない個別の症状や事情を考慮するのが、

調査員が要介護者とその家族から聞き取った「特記事項」と

主治医が書く「意見書」であり、

「一次判定の結果」+「特記事項」+「主治医の意見書」の3つの判定材料を元に

最終的に審査委員会なるところで話し合われ、その人の介護度が決められるらしい。

(これが二次判定)

 

少し前の記事でも軽く触れたが、この「質問項目」というのは、

ほぼ、介護申請の対象者(つまり父)についての「認知能力」「体の不自由度」

ついて問う質問のみで成り立っている。

 

父の場合、年相応の物忘れと、今回の介護保険のことなどの「ちょっと難しい説明」

を理解することが難しいものの、いわゆる「認知症の症状」というのはない。

そのため、認知能力を問う質問(あなたの名前は?とか今は何月?季節は?など)

はすべて完璧に答えた。

 

そして体の不自由度・・・もまた同じ。

麻痺があるわけでもなく、手足は不自由なく動く。

質問項目の中には

「ちょっと立ち上がってみてください」

「ちょっと歩いてみてください」「片足を上げることはできますか?」

と、調査員の目の前で実際に動作してみせるものもある。

 

調査員が病室にやってきたときには、わたしに手を引っ張ってもらって

体を起こしたはずの父だったが、時間の経過とともに、

だんだんと当初予定していたはずの「弱々しい老人の設定」を忘れてしまい(笑)

このあたりになってくると、なんだかすっかり「元気な老人」になり始めてしまった。

(相談員Sさんも”認定調査になると「できない」と思われるのがイヤで

張り切ってしまう高齢者が多い”と言っていたがまさにその状態だった!)

 

歩いて見せてくれと言われたとき、

狭い個室の中を10歩くらい、それはそれは元気に歩いた。

そして「片足上げられますか?」の質問にも、

「こんな感じにあがりますよっ(ドヤッ)」とばかりに、

頼まれもしないのに腕までブンブンと元気よく振り、

膝を高く上げてその場足踏みして見せた・・・・(◎_◎;)

 

いや、わたしにも見せたことないよね?そんな軽快に動く姿は・・・?

いつもはもっとスローモーションじゃないですかあ~・・!

 

おいおいおい・・・・やめてくれー。そこまで張りきらなくていいからっ

「弱った演技をする」んじゃなかったのか・・・(汗)

と、わたしはだんだん不安に。

 

また、病院での過ごし方を聞かれたので、

「毎日リハビリ室へ行ってリハビリをします。シャワーは週2回」

と、ここでも元気で答えた父。

この流れはさすがにまずい!と思い、そこですかさず

 

「あ、でもリハビリ室へいくのもシャワー室へも、車椅子を使っています。

長い距離を歩くと酸素の数値が下がるので歩行の許可は出ていないんです。」

 

と、付け加えた。

調査員さんは「え?車椅子なんですか?」と、

再度聞き直すとそれをきっちりメモしてくれた。

 

もちろんウソは言っていない。事実、長時間の歩行は酸素の数値が下がるのと、

父ひとりで病棟用酸素ボンベの重たいカートを押して歩くわけにはいかないため、

病室の外へ出るときにはいつも車椅子で、看護師がボンベ帯同で押してくれるのだ。

だから元気になってきたといっても、

父は室内のトイレとリハビリ室内での歩行(理学療法士が付き添った状態で)

しかしていないため、実のところ、どのくらいの距離をひとりで歩けるのか?

全く読めないのが現在の状況なのである。

 

だから、室内でたかが10歩、元気よく歩いて見せても

病院内を自由に歩き回れるということではないんですよー、

というアピールは重要だった。

 

さらに父が酸素飽和濃度を測るモニターを首からぶらさげていることにも気がついて

それも特記事項として書き加えてくれた。

 

そうやってどんどん書いてくだされ。

こういうところは、まさに「入院中の認定調査ならでは」かもしれない。

家に帰るときには当然モニターも外しているわけだから。

 

ほかにも、

「肺を圧迫されると息苦しくなるので前かがみの動作がつらい」

「シャワーはできるが、お風呂は苦しいので介助が必要」

「重いものを持ったり、しゃがんだり立ったり・・・という上下運動をすると

息が苦しくなるため、家事は大きな負担になり難しい」など、

パっと見元気そうに見える父の、「何が困るのか?」をなんとか補足して伝えた。

 

とはいえ、決められた質問事項は、その9割くらいは「できます、できます」

オンパレードだったと思う。

 

ネットで事前に情報を集めていたが

「認定調査の質問項目は呼吸器疾患のある患者を対象にした内容ではないため、

手足が不自由なわけではない、在宅酸素患者の介護判定は軽めに出る傾向にある」

というのは事実かもしれないなあ・・・と思った。

そのくらい、調査項目にある質問は「できる」ことばかりだった。。。

 

父には基本的に「できない」動作はない。ただ、

普通の人がサッサとできることでも、息が続かないのでこまめに休憩が必要なのだ。

着替えも、やれと言われれば自分でなんとかできるが、

ズボンに足を1本通すたびに、はあはあ・・・と息を整える。そんな感じなのである。

しかし、父本人はその調査の重要さ自体をあまり理解できていないため、

 

本当に聞かれたことにしか答えなかった

シャワーやリハビリには車椅子を使っている、ということを自分で補足しないことは

まさにそれだった。

口頭で家族が現状をできるだけ丁寧に補足しないと調査員には伝わらない。

その点がとてももどかしかった。

 

 また、基本的に調査員さんは父のほうに向かって話しかけて質問を続けるので、

そこにわたしがどの程度割り込んでいいのか?も難しいポイントだった。

 

父の答えることにいちいち補足を入れてしまうのも、

なんだか「介護認定を出してもらいたくて必死」に映ってしまわないか?と

躊躇があったり、と。

 

 

調査中、父本人はまるで他人事のようにリラックスしていた。

それは、父にとっては「退院後の生活はなんとかなる」というのと、

「まあ介護サービスが受けられるに越したことはないけど、

それで足らない部分はなんだかんだと娘が助けてくれるだろう」

というわたしを全面的にアテにしているせいだと思われる。

つまり、自分の今後の生活の便利さは

介護サービスの有無に、そこまで左右されないのでは?と楽観的だったのだ。

 

しかし、わたしにとっては介護度がどのくらい出るか?は大問題である。

どのくらいの訪問サービスが受けられるか?によって、

わたしの今後の負担がどのくらい軽減されるか???が変わってくるのだから。

 

そんなこんなで、認定調査も終盤にさしかかった。

 

(つづく)