介護申請に向けて。

それから3日後の10月25日木曜日。

実はこの前日に、人工呼吸器を外してからもずっと続いていた、肺炎治療のための

抗生剤の点滴が終了していた。

わたしは、この抗生剤の点滴がいつまで続くのだろう?ということを、

ずっと気にしていたのだが、それは「早く終わってほしい」ではなく、

むしろ「終わってしまったらどうしよう」の気持ちだった。

 

なぜなら、この総合病院は、いわゆる急性期病院であるため、

その性質上、点滴治療が終了したら、基本的に父がこの病院で”治療”するべきことは

終わってしまうわけで・・・

「退院」の話が出てくることを恐れていたからだ。

 

しかし、この時点での父の状態は・・・というと、酸素を常時1~2L吸入した状態で

個室のトイレへ自分で歩いていくのがやっと・・・の状態だった。

そのため、ひとりで廊下に出ることは許可されていないし、

(室内の壁から供給されている酸素のチューブが届く範囲しか歩けないため)

 

毎日理学療法士とともにリハビリをしているが、

1階にある、リハビリルームまでの往復も車いす&酸素つき・・・である。

父によると、そのリハビリでの歩行練習でも、

理学療法士が酸素濃度を常時計測しながら今日は50歩、今日は100歩・・・という

レベルのもので、父の報告によると、歩行ペースが上がると酸素を吸いながらでも

酸素濃度がとたんに80まで落ちたりするので、

慌てて理学療法士から制止されてしまうとのことだった。

素人目ではあるけれど肺炎が治癒しても、今まで通りの日常生活を送るのは到底無理

なのでは?と思えてならない。

 

少なくとも、リハビリルームや売店へ一人で往復できるくらいにならないと

入院前の暮らしになんて、戻れそうにない。

 

場合によっては「療養型病院への転院」を勧められるかもしれない・・・と

相談員Sさんから聞かされていたため、そうなったらまた手続きもそうだし、

父の説得にも苦労するかもしれないなあ・・・と憂鬱な気持ちになった。

(父は転院するくらいなら、家で寝て治す、とでも言いそうで)

 

ともかく、父の様子からして、介護サービスの申請は「父に言いづらい」などと

躊躇している猶予はないと思えた。そこで意を決してこの日ついに父に話してみた。

 

ともかくいきなり「介護」というワードは出すまいと・・・と思ったので

 

「お父さん、実は・・・申請をすれば、週1回とか2回とか・・・

家の掃除とか食事の補助とかをやってもらえる支援サービスがあって、

退院したら、そういうのを利用したらいいんじゃないかなって思うんだけど、

どうかな? お父さんもすごく助かると思うし・・・。」

 

という言い回しで父の反応をうかがった。

それはもう内心ビクビクだった。

 

ところが、父の反応はわたしの予想とは全く違うものだった。

 

「え?なに?そんなサービスがあるのか?!

それいいねえ~。そんな便利なサービスがあるならぜひ使ってみたいねぇ。

一体どういうしくみなの?詳しく教えて。」

 

と、目をキラキラさせて食いついてきたのだ。

これは実に意外な返事だった。

 

どうも雰囲気よさげだな、と思ったので

そこからは、「介護保険を使ったサービスなんだけどね、」と

少しずつ「介護」の言葉を説明に入れながら、概要を聞かせたところ、

なんと、大喜びだったのだ。

 

「週2回もうちに手伝いに来てくれたら、こんなに助かることはないなあ。

ぜひ利用したいなあ」

 

と。

父は「年寄り扱いするな」と逆ギレするか、「介護保険を使うほど落ちぶれたか」

と激しく落ち込むかのどちらかだと思っていたのに、

全く正反対のこの喜びようは、本当に予想しなかったものだった。

 

おそらく・・・父本人が、誰よりも

「こんな状態で家に帰れるんだろうか?暮らしていけるんだろうか?」と

不安だったのかもしれない。

 

父は複雑な話は理解できないけれど

(まあ介護保険のしくみや利用は普通の大人でも実際に利用する立場になってみないと

分からないと思う)

利用するためには申請が必要であること、調査されること、そしてその結果によって

介護度が7段階あり、そのどれに認定されるかによって、サービスを受けられる回数が

変わってくるんだよ・・・というところは、おおよそ理解してくれた。

 

印象的だったのは、

「ワシのような老人の一人暮らしは、ご近所さんにも心配や迷惑をかけてしまっている

かもしれない。そういうサービスの人が来てくれたら、ご近所さんも安心するだろう」

 

と父が言ったこと。

父は父なりに、自分が周囲の負担になっているのではと心配していたのかも。

 

ということで、準備は整った。

 

わたしは父の意思確認が取れた後に、

再び地域包括支援センターの相談員Sさんのもとへ急ぎ、その旨を伝えたところ、

Sさんも「よかったねぇ」と大変喜んでくれた。

 

まだ入院中である父について一体どのタイミングで介護申請をしたらいいのか?

が、わからなかったので尋ねたところ

申請→認定調査→結果通知・・・・という流れだけでも通常40日以上かかるので、

今すぐにでも申請はしたほうがいい、調査は入院中でも行えるから大丈夫、

との助言をもらった。

 

こうなってくると気になるのは、

果たして父がどのくらいの介護認定を受けられるか?である。

相談員Sさんによると、現在の父の状態のままであれば

「おそらく要介護2・・・うまくいけば要介護3というところじゃないかな」

という意見だった。

 

わたしはSさんのその予想にものすごく驚いた。

 

わたし自身がネットで「どのくらいの不自由度でどのくらいの介護認定が出るか」

についていろいろ調べてみた限りでは、

どうやら「慢性呼吸器疾患」については介護認定で低めに出る傾向にある・・・

とあったからだ。

 

それは、現行の介護認定調査の審査項目が、認知症の度合い」「体の不自由さ」

重きを置かれた質問ばかりで、「息苦しさによって行動が制限される」という点を

審査する項目がないから・・・ということが理由らしい。

 

実際、「調査ではこんなことについて質問されますよ」な項目をネットで

チェックしてみたところ、単純にその質問だけに関して言えば

父は該当するものが少ないように思えた。

頭はしっかりしているし、体に麻痺があるとか、

明らかな身体障害があるわけではないからだ。

 

そのため、父のような慢性呼吸器疾患での要介護度は、全国的な傾向に準ずると

高くて要介護2、多くは要支援2~要介護1といった判定になる様子だった。

 

それでも、相談員Sさんが「要介護2は出るのでは?」と言ったということは

この地域(Sさんの経験で知る限り)だと、父と同じような病気の人では

そういう判定が出る人が多いということかもしれないが。

 

ある意味、審査に大きく影響を与えるのは「主治医の意見書」かもしれない。

さて、主治医がどのように意見書に書いてくれるか・・・。

 

 

ともかく、準備は整った!