噛み合わない会話。

(つづきです)

 

昨日の朝、吐き気がおさまっていないのなら絶対に病院へ連れていくつもりで

父の家へと向かった。

おそらく父は頑なに拒むであろうことは想定できたけれど、

ショッピングセンターでの、あのヨボヨボぶりもかなり心配だったし

月曜日は主治医が外来にいるので行かなければ!という、強い気持ちをもって。

 

LINEにも通話にも出なかった父。

いったいどうしているだろう?と、恐る恐る玄関のドアを開けると・・・

奥のリビングからテレビの音がいつもどおり聞こえてきて、まずはホっとする。

 

努めて平常をよそおって、父のところまで行くと

父はすでにパジャマから外出用の服に着替えて座っていた。

 

私「おはよう。どう?気分は?治った?吐き気はおさまった?」

 

父はわたしの顔を見て、驚いたような顔をして

 

父「・・・・・・ああ・・・・。今、お前の顔を見ながら考えてる。」

私「え?なにを?」

父「気分がどうだったかなあ?と思って。」

 

何やら会話がおかしい。怖い。

まるで吐き気に苦しんでいた記憶がないかのよう。

・・・というより、動作の重いPCのような反応の鈍さと言ったらいいか。

父の返事を待ちながら、台所をチェックすると、冷凍うどんを作った後があるけれど

そのうどんにはほとんど手を付けず、どんぶりごとシンクの中に置かれていた。

 

昨日届いたはずの配食弁当も手付かずでテーブルに置かれていた。

冷蔵庫を開けてみると、

土曜日に本人が「食べたい」と言ったから買ったはずのスイカすら手つかず。

 

ほぼ食事をとってないことはそれらの状況からすぐに分かった。

 

それなのに父は、

「今朝はうどんを食べたよ。」

と、どこかボケーっとした様子で答える。

 

私「え?うどん?食べてないでしょ?台所にうどんが捨ててあったよ?」

父「そうだったか?あれ?おかしいな。」

 

と、ここでも会話がおかしい。

うどんを作ったけど食べていないことすら、覚えていない様子。

 

ところで、父がすでに外出着に着替えているのは、

毎週月曜日の通所リハビリに行くためだとすぐにわかった。

月曜日と木曜日の朝は、こうしてすでに着替えが終わっていることが多いので

それ自体は驚きではないのだけど、驚いたのは

ほとんど何も食べていない、こんなに弱々しい状態でリハビリに行く気だったのか?

というところ。

 

私「リハビリ行くつもりだったの?行けるような状態じゃないでしょ?

今日はお休みしたほうがいいよ」

父「そうか?そうかな・・・。じゃあやめておくか。」

 

と、そんな会話をした後で(※この会話重要)

 

私「ずっと気持ち悪くて何も食べてないんでしょう?これから病院で診てもらおう」

 

と、本題を切り出すと、父は思った通り首を横に振った。

これは想定内。

父は定期検診以外で病院・・・というと、入院させられると思うのかとても嫌がる。

 

父「大丈夫。病院へ行くほどじゃないよ。寝ていたらそのうちよくなるから。」

 

と、この状況でなお病院は必要ないと言い放つので、

少々語気を強めて父に受診を促す。もちろん、父は予想通り抵抗する。

こうなったら・・・と、トドメの一言をつきつけた。

 

私「これまで、わたしが ”病院へ行きなさい” 言うタイミングが
間違ってたことあった?行く必要なかったじゃん、ってことあった?」

 

父はその言葉で、苦笑いしながら抵抗をあきらめた。

「そうだな・・・。診てもらうか。」と、受診することに同意した。

 

ところが、それから台所の残飯の片付けなどしつつ、ほんの5分ほど経った頃に

わたしが

 

私「それにしても・・・そんなにフラフラなのにリハビリ行くつもりだったの?」

と、父の身支度が出来上がっていることを指摘して笑うと

 

父「リハビリじゃないよ。病院に行くつもりだったんだよ。」

と、言い出す父。

私「え???病院て?どこの病院?」

父「どこって・・・・(考えながら)・・・・〇〇先生じゃないか。
〇〇先生に診てもらおうと朝から決めていたんだよ。」

 

と、大真面目な顔をして言う。

いやいやほんの5分前・・・

「リハビリはやめたほうがいいよ」「そうするか」という会話をし、

病院に行くことも、ついさっきまでしつこく抵抗していたはずなのに、

主治医に診てもらうつもりだった・・・なんて。

さっきしたばかりの会話がの記憶がない父。

 

こういう場合、相手が信じ切っていることや間違いを指摘するのはよくないので

「ああ、病院へ行くつもりだったのね。」と父の会話に付き合い、受け流した。

 

そして、その後病院へ到着したときに、

父の認知能力がおかしい?という疑いは確信に変わった。

 

車を病院の玄関に横付けして父だけを先におろし、

わたしは駐車場に車を止めてから、遅れて病院の中に入っていくのが通常なのだけど

この日は「予約外受診」ということで、受付手順がいつもとは違う。

この総合病院を予約外で受診したことのない父なので、

おそらくどうしたらいいかわからないはず。

なので父に

「いつもと違うからね。”予約外受付”っていうところへ行って診察券を見せるんだよ。
でもわからなかったら、わたしが行くまで待ってて。わたしがやるから。」

 

と、告げたのだけど父は「大丈夫、わかるから。」と言って先に車を降りた。

 

駐車場に車を止めて、5分ほど遅れて受付へ行くと、父がロビーの椅子に座っている。

 

私「あれ?もう受付したの?まだだよね?」

父「受付したよ。でも名前を呼ぶからここで座って待っててくれと言われたんだ。」

 

え?ああそうなんだ・・・なぜだろう?何か問題でも?と疑問に思いつつも、

とりあえず父の隣に素直に座り、5分ほど待ったが・・・・

「予約外受付」の窓口の列に並ぶ人達は、次々と受付を済ませていく。

誰一人「ちょっと待っててください」なんて指示を受ける人はいない。

 

これはもしかして・・・・?と思い、

父を傷つけないように「遅いからちょっと受付の人に確認してくるね」と言い、

 

改めて父の診察券をもって、わたしは予約外受付の列に並んだ。

そして自分の番になり、あえて受付の人に父から聞いたことを尋ねることもなく、

「お願いします」とだけ言って、父の診察券を差し出すと、

別にどうってことなく、普通に受付票が発行されるではないか。

 

 

つまり、父の言う「受付は済ませた。名前が呼ばれるまで待っててくれと言われた」

・・・というのは、

完全に父の認知能力がおかしなことになっているという証だった。

 

わたしの頭をよぎったのは

 

「脳転移」

 

というキーワード。

 

ずっと続いている吐き気と、動作が非常に緩慢になっていること、

認知機能があいまいなこと・・・どれもほぼ同時期に始まったと言える。

 

土曜日に話した時には、それほど会話がかみ合わない感じがはなかったが

今日はあきらかにおかしい。

 

ともかく、「突然」始まったことからしても、

認知症ではなくいわゆる「せん妄」だろうとは思いつつも

これまで、「せん妄」は入院中にしか経験がないため、

自宅にいてこういうことになるのは初めてで・・・

それはもう原因として「脳転移」しか、頭に浮かばない。

 

 

なんとか主治医に「脳転移」の疑いはないのか?と聞きたい。

話がかみ合わない、記憶がおかしい、ということを訴えたい。

それを言わなければ、ただの「吐き気」だけの話で終わってしまいそうだ。

 

けれど、完全に会話がおかしいわけではなく、「まだらボケ」と言った様子で

突然正気になったりもする父なので、そういう状態の父の前で

主治医にむかって

 

「脳転移の可能性は・・・?」

 

と、聞く勇気はなかった。父を絶望の淵に追いやりそうで。

 

 

 (つづきます)

 

 

 

※もっと明るい記事書けたらいいのにと思うけれど、父のことをこうして

吐き出していかないと、自分がパンクしてしまいそうなので、申し訳ないです。

こんな話ばっかりで読む人をうんざりさせてないか心配・・だけれど、

きっとうんざりした人はすでにブログを離れていると思って、書いてます(汗)