訪問看護のありがたみ。

退院の翌日から、訪問看護師さんが来てくれることになっていた。

当面は週3日の予定だが、その後落ち着いてきたら週1回程度になると思われる。

 

初日の訪問看護の日は、わたしは自分の英会話レッスンの日と重なったので

あえて行かなかった。

レッスンの予約をずらすことも考えたけれど、

誰かが父を訪ねてくれるタイミングにわたしがいちいち同席する必要はないし、

そもそも、自分だけではサポートしきれない部分を看護やヘルパーさんに

助けてもらおう・・・というためのこのサポート体制なのに、

看護師さんが来る日にわたしがわざわざ行ってたら意味がなくなる・・・と、

今後は父のために自分の予定を無理にずらすことは極力やめようと決めた。

 

この先も続くであろう通い介護を考えたら、

自分の生活ローテーションは、できるだけ崩さないようにしていこう。

本当に必要な時だけ、動くようにしよう。

 

ところが、 

入院以来ずっと遠のいていた「お風呂」に、久しぶりに入れるはずだったのに、

父からは「シャワーにした」とのLINEが入ってガックリ。

訪問看護師さんのことが気に入らなかったのかもしれない(早速これだ)

 

そして2回目の訪問看護の日の朝にちょっとした事件は起こった。

それは父から、こんなLINEが届いたからだ。

 

 

1か月近くの入院から帰ったばかりで、「風邪薬を買ってきてくれ」って

何を言い出すのやら、全く意味が分からない。

それで「風邪ひいたの?」と聞くと、

「昨日風邪ひいたがもう治った」と、これまた若干意味不明な返事。

(あとから本人に口頭で確認したら、訪問看護師さんがきてシャワー浴をしたあとに

体調が非常に悪くなり風邪を引いたが1日で治ったという”謎の自己申告”だった)

 

普通の人であれば、ちょっとした風邪を市販薬で治そうというのは

よくあることだし、わたしもとりあえず市販薬で様子を見るタイプである。

しかし、父の場合は違う。

肺に大きな持病を抱えている身体なので、普通の人にとっての「ちょっとした風邪」が

いとも簡単に肺炎を引き起こしてしまうというハイリスクな人。

実際、ここ数年は100%の確率で

「風邪→肺炎→入院」のルーティンを繰り返している。

 

なので、市販薬を飲みたくなるような体調不良のときには、「このくらい」とは

思わずに早めに病院の診察を受けなければいけないはずなのだ。

もう「市販薬を買ってきてくれ」だなんて言ってる時点で、自分の病気を全く

理解していないんだなとわかるわけで・・・全身の力が抜ける思いだった。

わかりやすくこの点を説明し、「だから薬は買って行けないよ」と

やんわりLINEで返信をした。すると・・・

 

 

まずい・・・。キレかかっている(汗)

 

これ以上はLINE話せる雰囲気ではないと思ったため、

直接本人に会って話そうと思った。ちょうどこの日は2回目の訪問看護の日

で、プラス、ケアマネさんも契約手続きのために訪ねてくることになっていたため

わたしもその時間に父の家へ行くことになっていた。

なので、このことを父の前で看護師さんに薬のこと相談することにした。

 

父の家に行くと、ちょうど同じタイミングでその日の訪問看護師さんが

訪ねてきてくれたところだった。

初めて顔を合わせる方だったが、とても気持ちの良い方で話していてわたしのほうが

ホっと安心感をもらえる方で安心した。

 

早速、市販薬のことを看護師さんに聞いてみた。看護師さんのほうから

父に「ダメ」だと言ってもらえたら父は納得するだろうし、

逆に「OK」だったとしても、看護師さんの判断でOKなら、わたしが安心できるし。

 

すると看護師さんはそのことを念のためステーションへと問い合わせてくれた上で

父には聞こえないところに移動して

 

「これを自己管理できずにガバガバ飲んでしまうなら問題だけど、

たぶん本人はこれをお守り代わりに思っていて、これがあれば安心・・・と

思っているだけだと思うのね。だからとりあえず渡しておいても大丈夫。

飲んでいるかどうかはそれとなくこちらで確認して、管理していきますよ。」

と言ってくれた。

 

そうやって一応「許可」が出たので、その薬を看護師さんの前で父に渡した。

ここからがすごかった。

 

看護師さん「あら~お父さん、その薬はいつも飲んでるの?(笑顔)」

父「ああそうだ。これがすごく効くんだ。」

看護師さん「へぇ~~! 今も飲んでます?(体の)調子が悪いですか?」

父「いや、今は飲んでない。昨日ちょっと風邪をひいたがすぐに治ったんだ。

  でも今後のためにまた買っておこうと思って娘に頼んだ。」

看護師さん「なるほど~~! どんな薬なんですか?ちょっと見せてくださいな~」

父(薬をそのまま手渡す)

看護師さん「ふ~~ん、これもうパッケージからしてすごく効きそう!

   コルゲンコーワ・・・ああ!聞いたことありますね~!そんなに効くのね。

   わたしも今度買ってみますね!」

(ここで看護師さん、さりげなく薬の名前を父の看護ファイルに書き留める)

 

とにかく看護師さんの話術がすばらしかった。父もすっかりのせられて、

その薬は海外旅行へ行くときにも必ず常備していき、体調の悪くなったツアー仲間の

人に渡してすごく喜ばれたことがあるとか、饒舌に話す話す・・・。

 

わたしは父に「・・・・だから、勝手に薬を飲んだらだめなんだよ」

ストレートに言うことしか思いつかなかったけれど、看護師さんのおかげで

この市販薬の問題は、わたしにも父にも不満の残らない形で収めることができた。

 

そして、わたしにはもうひとつ気がかりなことがあった。

それは、酸素の量。

父は「安静時1L」「労作時3L」の酸素を吸いなさい、という指示を受けている。

ネットで在宅酸素について調べてみると、必ず

「処方された酸素の量は自己判断で勝手に増やしたり減らしたりしてはいけない」

と書かれている。

ところが父は、酸素が使い放題だと分かったものだから

(※在宅酸素は自己負担額を毎月定額で支払う形なので、

どれだけ量を使っても金額は変わらないため)

 

動くときも寝てるときも、24時間ずっと3Lの酸素を吸い続けていた。

わたしが「決められた量を守らないといけないよ」と言っても、耳を貸さず。

(たぶん、いちいち量を変えるのがめんどくさいのだろう)

 

酸素は、たくさん吸えばいいというものではないらしく、肺の病気の種類によっては

「余分に酸素を吸いすぎると体内に発生する二酸化炭素を処理しきれなくなり、

体調不良を起こす」とあったため、わたしはこの点を心配していた。

 

そこで、これも父の機嫌を損ねないように、父に聞こえないところで看護師さんに

こっそりと聞いた。

すると、

「きっと3L吸ってるほうが体がラクなんでしょうね。3Lくらいの量だったら、

二酸化炭素のこともあまり気にしなくて大丈夫だと思うので、とりあえずは

そのままにさせてあげましょう。わたしのほうで先生のほうに報告して

そのままでもいいか?確認はしておきますから。大丈夫ですよ(ニッコリ)」

と、ここでも安心させてもらえた。

 

わたしがこうして、コソコソと看護師さんに父のことを相談するという、

もうその行為だけで、この日初対面だった看護師さんは、父が気難しくて

扱いの難しい人だということをピーンと察してくれたようで、

本当に父の扱いが上手だった。

父もこの看護師さんのことを、とても気に入ったようでホっとした・・・。

 

わたしは訪問看護師さんが父を訪ねてくることについて、

「父のケアをしてくれる」

「病院とのつながりがある安心感」

みたいなものを、メリットと思っていた。

 

しかし、実際にはこうして、

わたしと父の間にふんわりとした緩衝材のように入ってくれる存在でもあったのだ。

 

入院中に、地域包括支援センターのSさんと初めて話したとき、

彼女が

 

「とにかく自分だけで抱えずに、他人を間にいれたほうがいいのよ」

 

と言ったことが、すごく印象的だったのでずっと覚えているが

こういうことなんだな・・・・と思った。

病院の中では、いつも誰かに声をかけることができたが、

退院して、家に帰ったら父と自分だけになる。

父のやることなすこと気になって、心配になってつい口うるさくなるわたしと

自分の体のことを正しく理解せず、わたしの小言を煩わしく思うだけの父。

 

そこに、誰かが訪ねてきて風を入れ替えてくれる。

それは、本当に大きなことだ。

特に持病の問題があると、それが看護師さんであることの安心感は計り知れない。

(父はきっと自分にはそんなもの必要ないと思っているだろうが・・・)

 

わたしの父に対する不安や気がかりは、あとからあとから新たに湧いてきて

なかなか気持ちは楽にならないけれど、一方でこうしてサポートしてくれる人もいる。

 

ひとりではない。

 

きっと、頑張れると思う。