旅行に行きたい。

実は今、少し悩ましいことがある。

父のこの先のことで、不安や悪い展開を数え上げたらキリがないのだけど

そういう種類のものではなくて、悩ましいのは

父が初場所を見に行きたいなぁ」と言い出していること。

いまだ、家の近くをゆっくり散歩するのが精いっぱいなレベルの体力しかない父。

それでも本人比では、「退院したころに比べたら体力が戻って来た気がする」

と言っているので、小さな進歩ではあるけれど本当に喜ばしいこと。

 

大相撲大好きな父。特に今場所、無念の途中休場となってしまった稀勢の里のことを

ずっと以前から応援している。今場所は稀勢の里の復活と、自分の復活を

どこか重ね合わせているかのようにも見えて、稀勢の里が負けると

「かわいそうになあ」と、父も元気がなかった(ちょうど退院後だったのもある)

 

そんな父、

稀勢の里はきっと初場所には復活してくるだろうから、応援に行けたらなあ」

と、たびたび漏らしていて、

そのたびにわたしはどう言葉を返していいか悩んでいるというわけ。

父はもしかしたら、わたしが「行きたいねぇ」と話を進めてくれることを

暗に期待してそんなことを言うのかもしれないが

今までのように、「わかった!じゃあ先行チケット抽選チャレンジしてみるわ」

と、言えないのが本音である。

 

酸素ボンベの携帯が必要になってしまった以上は、身軽には旅行はできない。

(※旅行ができないという意味ではなく”簡単ではない”という意味)

在宅酸素を使うことになった患者は、大抵が最初はそのことに気落ちするせいか、

周りは励ましのつもりで

「在宅酸素でも旅行にいけますよ!そういう人はいくらでもいますよ!」

と言う。もちろん、わたしもまた・・・そうやって父の入院中に安易に

励ましてしまった人間のひとり(汗)

 

さらに酸素屋さん(※在宅酸素のボンベを配達してくれる人)も

父が「もう海外旅行には行けないよなあ」とこぼしたときに

「そんなことありませんよ!海外行ってくださいよ!ボンベ何本も持って!」

と励ましちゃったものだから大変。

もちろん、酸素屋さんは何も悪くない。彼は本当にいい人で、父が酸素ボンベの

交換の電話を入れなくても「近くまでに来たから寄りましたよ~」

と、気軽に立ち寄ってくれて、ボンベ1本でも交換していってくれるような人。

(彼にとっても後日わざわざ出直すより仕事上効率がいいのだろうが、父にとっても

電話を入れなくてもついでに寄ってくれるのは助かるのでwin winな関係になっている)

 

ただ、酸素屋さんは父があの年齢にして「20か国制覇してる旅行マニア」

だということを知らなかった(笑)

彼は、「海外にもネットワークがあるから酸素の調達は大丈夫ですよっ!」

と言ってくれたが、たぶんそれは先進国の・・・メジャーな海外観光地の話であって、

父の行きたい国には、そんなネットワークはないのではないだろうか?

わたしが知ってるだけでも、父が死ぬまでに行きたい国は

南インド(※北は制覇済み)

キューバ

メキシコ

イスラエル or イラク

(↑お国の事情でどちらか一方の国へ行くともう一方は入国禁止になるらしい)

である。

これらの国に今使っている会社の酸素ボンベのネットワークがつながっていたら

逆にびっくりする。

 

海外については、実は酸素ネットワーク以前の問題でアウトである。

こんなに早い段階で父の生きる希望を奪うことができないので、知らせていないが

わたしがこっそり調べたところ、

在宅酸素で飛行機に乗る場合、

「酸素ボンベの扱いに慣れた同行者が必ず付き添うこと」

という航空会社の規則があるらしい。

そもそも、酸素ボンベを持って飛行機に乗ること自体、航空会社に事前申請を

しなければならないらしい。

すべての航空会社がボンベの持ち込みを認めているわけではないので、その点でも

制約がかかるし、つまり

「飛行機に乗りたい場合は事前申請と同行者が必要」

ということで・・・・実際にはかなり煩わしいことになる。

 

これまで一人で海外旅行のパッケージツアーに参加していた父。

今後も海外に行くとしたら、その際は「付き添い者」の同行なしには、

飛行機への搭乗が不可能になる。

さすがに1週間の海外旅行の付き添い・・・などはいろんな意味で荷が重すぎて、

いくらわたしでも叶えてやれない。

 

「来年の春になったら、またどこか海外旅行に行きたいな」

 

何も知らずに、来年の春になったら海外に行けると信じている父を見ると

かわいそうな気持ちになるけれど、こればかりは無理である。

 

話はもどって、じゃあ「両国国技館初場所を見に行けるか?」というと・・・

やはり国内になると少しハードルは下がる。

ただ、やっぱり簡単ではなく手続きや制約が多いのが現実。

 まして、難しい話についていけない父ではたぶん無理なので、手続きすべてを

わたしが代行しなければならないはず。

 

大半の公共交通機関では、酸素ボンベは1人2本までしか持ち込みできない規則に

なっているらしい。そのため「旅行に必要な分だけボンベを持ち歩く」のではなく、

通常は業者に連絡をして、宿泊先のホテルに酸素濃縮器や交換のボンベを

配置してもらうサービスを使うことになる。

 

そしてそのサービスを利用するためには「書類に医師のサイン」が必要になるので

今後は国内外問わず、旅行に行きたいと思ったら医師に許可をもらって、

旅行先の酸素供給についての書類に主治医のサインをもらわないといけなくなる。

 

それを書いてもらってから、業者に手配を頼むのだけど・・・

その業者への手配自体、「出発日の1週間前までに済ませておく」という、

ここにも面倒な制約がある。

 

交換ボンベをホテルに設置してもらう手配ができたとして・・・・

今度はホテルへ到着する時間から、家を出る時間まで逆算して、

「何時間分のボンベがあれば大丈夫か?」を考えなければいけない。

 

チェックインの時間に合わせてボンベを交換するとしても最短で6~7時間は必要。

それにはカート用のボンベが1本あれば、計算上は足りるけれど

不測の事態が生じた時にそなえて、予備のボンベは当然携帯すべきである。

 

予備のボンベは誰が運ぶの?

 

・・・・当然わたし。これまでの旅行中でも、父の息切れを軽減させるために

父の手荷物はすべてわたしが背負っていた。自分の分とあわせて計2人分。

 

そこに今後は予備のボンベ1本が加わるわけで・・・・。

腰に負担のかかる重さはわたしには禁忌なので、ボンベまで担ぐのは到底無理。

・・・となると、父の荷物+自分の荷物+予備のボンベをまとめて運ぶために

1泊旅行といってもこれは小型のスーツケースが必要だ・・・。

 

国内1泊旅行といってもここまでの準備と荷物になるかと思うと、

はぁ・・・大変だなぁ・・・とため息が出てしまう。

当然、「行きたいなあ~」と言っている父にはこういう煩わしい現実的な問題は

見えていない。

 

ちなみに、兄弟にこのことを話すと、二人とも口をそろえて

 

「お父さんは今までもう十分旅行を楽しんだんだからそろそろ卒業でいいのでは?

お前が無理して連れてってやる必要はないよ。」

 

という、わりと予想通りなドライな反応が返って来た。

 

初場所の先行抽選に申し込むか、まだ迷っている。

いろいろ手続きしなきゃいけない煩わしさもあるけれど、

それよりも問題は、そもそも今こんなに体力のなくなっている父が、

2か月後に、旅行へ行けるほどの体力を取り戻しているか?

そこがまったく読めないという不安材料のほうが大きい。

 

今は「退院間もないから体力が戻らない」「そのうち元気になる」なんて

希望をもって本人は頑張っているし、わたしもそうやって励ましているけれど

心肺機能自体が入院前よりも低下しているのは明らかなので、

長時間の歩行に耐えられる体力が戻らない可能性もあると思う。

 

そうなると、距離のある移動は車椅子でないと無理・・・という可能性も。

(・・・となるとまた車椅子バージョンでの行程を考えなければならなくなる?)

  

普段、めったに旅行に行かない親だったら・・・

おそらく、在宅酸素で旅行に行けるかどうか?なんてことはあまり大きな問題にならず

こんなことで悩まなくてよかったんだろうなと思う。

 

でも外出好き、海外旅行大好き!な父にとって、旅行へ行けなくなるということは

「生きている意味がなくなってしまう」くらいの絶望を与えてしまいかねない。

もしも父から・・・

「もう何の楽しみもない」って言われたらどんな言葉を返したらいいかわからない。

だから、せめて国内であれば、なんとかしてあげたいと思ってしまう。

(そしてそこまでしてやることないのに、と兄弟から呆れられるパターン)

 

とりあえず・・・先行抽選の締め切りまで、まだしばらくあるので

もう少し父の回復具合を見極めてから、決めようかなと思う。